非化石証書の読み方:電気の「環境価値」はどこで、いくらで取引されるか
FIT/FIPの読み方では再エネ電気の「買取」を見た。だが電気には、kWhそのものとは別にもう一つの商品が隠れている——**CO2を出さずに作られたという「環境価値」だ。それを電気から切り離して取引できるようにしたのが非化石証書**である。どの市場で、誰が、いくらで買うのかを整理する教材で、教育クラスタの環境価値編にあたる。
3つのポイントで読む
| 論点 | 要点 | |---|---| | 何の証書か | 非化石電源(再エネ+原子力)の電気1kWhが持つ非化石価値を証書化したもの。①高度化法の非化石比率算定 ②温対法の排出係数調整 ③需要家への環境表示、の3つに使える | | どこで取引されるか | JEPXの非化石価値取引市場で年4回のオークション。FIT証書は「再エネ価値取引市場」で需要家や仲介事業者も直接購入可、非FIT証書(再エネ指定/指定なし)は「高度化法義務達成市場」で小売電気事業者が購入する2市場構造(2021年11月改組) | | 価格はどう決まるか | 制度が上限・下限価格を設定した中でのオークション。FIT証書は上限4円・下限0.4円/kWh(2023年8月〜)、非FIT証書は上限1.3円・下限0.6円/kWh。供給(売入札)が需要を大きく上回る回は下限価格に張り付き、需給が締まると上振れする |
日本の再エネ発電比率(%、月次、METI電力調査統計から算出)。非化石価値の主な源泉の一つ——ただし「非化石」には原子力も含まれるため、これは非化石比率そのものではない点に注意。
① なぜ「証書」なのか — 電気は混ざる、価値は分けられる
送電網に入った電気は物理的に混ざり、家庭のコンセントで「この電子は太陽光由来」と区別することはできない。そこで制度は、電気(kWh)と環境価値を別々の商品に分離した。発電された非化石電気1kWhにつき1kWh分の証書が生まれ、電気とは独立に売買される。証書を買えば、物理的にどの電気を使っていても、その分の非化石価値を主張できる——これが仕組みの核心である。
FIT証書にはもう一つ重要な性質がある。FIT電気の環境価値はもともと賦課金を負担する国民全体に帰属するという整理のもと、証書の売上は再エネ賦課金の原資に充当され、国民負担を軽減する方向に働く。証書を買うことが、制度費用の還流にもなっている。
② 2つの市場と3つの類型
2021年11月の制度改組で、市場は用途別に2つへ分かれた。
再エネ価値取引市場(FIT証書): FIT電気由来の証書を扱う。最大の特徴は、それまで小売電気事業者に限られていた買い手が需要家・仲介事業者まで開放されたことだ。企業が自社のRE100目標のために証書を直接調達できる。2022年度からは全量にトラッキング(発電所の属性情報)が付与され、国際イニシアティブへの報告にも使いやすくなった。
高度化法義務達成市場(非FIT証書): エネルギー供給構造高度化法が小売電気事業者に課す目標(2030年度に販売電力の44%を非化石電源由来に)の達成手段。大型水力や原子力などFIT外の非化石電気が源泉で、「再エネ指定」と「指定なし」の2類型がある。買い手は小売電気事業者に限られる。
③ 価格をどう読むか — 「下限張り付き」は市場の失敗ではない
証書価格を読む上での最重要ポイントは、下限・上限が市場の評価ではなく制度パラメータだということだ。FIT証書は2018年の取引開始時に下限1.3円だったが、2021年11月に0.3円へ引き下げて需要家開放とセットで裾野を広げ、2023年8月から0.4円となった。この変遷自体が「価格は政策設計の関数」であることを示している。
オークション結果の構造はシンプルで、売入札総量が買入札総量を大きく上回る回は約定価格が下限に張り付く(FIT証書市場は供給が潤沢なため、この形が基本形)。一方で買い需要が伸びた回には0.4円台後半〜上限方向へ動く。近年は参加会員数が300社前後まで増え、約定量も年々増加傾向にある——「下限張り付き=誰も要らない」ではなく、需要の伸びは量に現れるのがこの市場の読み方だ。なお、第3フェーズ(2026〜2028年度)に向けて上下限価格の見直しが審議会で議論されており、水準は今後変わり得る。最新の約定結果と価格推移は、姉妹サイト新電力ネットの非化石証書ページ(原典: JEPX)が四半期ごとに整理している。
④ よくある3つの誤読
- 「非化石証書=再エネ証書」ではない。 非化石には原子力も含まれる。再エネとして主張するには「FIT証書」または「非FIT・再エネ指定」を選び、用途によってはトラッキング情報が必要になる。
- 「下限価格=環境価値の市場評価」ではない。 下限は制度が引いた床である(③参照)。価値の実勢は、約定量の伸び・売買比率・上振れの頻度に現れる。
- 「証書は電力会社しか買えない」ではない。 2021年11月から、FIT証書は需要家が市場で直接調達できる。電気の契約を変えずに環境価値だけを足す、という選択肢が既にある。
関連
- 姉妹編: FIT/FIPの読み方 / 電気料金の構造 / 電力市場の3層
- データ: 再エネ発電比率 / 新電力ネット・非化石証書の価格推移(姉妹サイト、原典JEPX)
- 用語: 非化石証書 / FIT / FIP / GX-ETS
編集物著作権: EIC Data (CC BY 4.0)
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