需給調整市場の調達不足率 — FY2025 に全 6 商品で急改善、価格構造を書き換えた
EPRX 年次取りまとめより、需給調整市場 6 商品の年間調達不足率 (調達不足量 ÷ 募集量、FY2024 新定義) を可視化。FY2025 は全 6 商品で不足率が二桁ポイント改善し、ほぼ解消した三次調整力② (36.9%→2.1%) は単価 −65%、不足率が最も高いまま残る一次調整力 (60.4%) は単価上昇。「価格を駆動するのは応動速度ではなく調達不足率」を不足率の側から裏付ける。
はじめに
需給調整市場の商品別価格を読むとき、当サイトは一貫して「価格差を駆動しているのは応動速度ではなく調達不足率」という見立てを置いてきました(商品別記事)。FY2025 通年確報(2026-06-18 公表)は、この見立てを不足率の側から検証できる初めての機会です。結論から言えば、全 6 商品で不足率が二桁ポイント改善し、その改善度合いに応じて価格が分化しました。本記事はその不足率そのものを主役に据えます。
⚠️ 最初に:この不足率の定義
⚠️ 年間調達不足率 = 調達不足量 ÷ 募集量(EPRX 公表)。この新定義は FY2024 からで、旧定義(〜FY2023、追加調達後の未達率)とは不連続です。年度を跨ぐ長期比較はできないため、本記事は FY2024→FY2025 の 2 点のみを扱います。また不足率は「募集量に対してどれだけ集まらなかったか」の割合であり、調達コストや不足の kW 絶対量そのものではありません。
全 6 商品の不足率 — FY2024 → FY2025
| 商品 | FY2024 | FY2025 | 改善幅 | |---|---|---|---| | 一次調整力 | 83.8% | 60.4% | −23.4pt | | 二次調整力① | 64.9% | 41.1% | −23.8pt | | 二次調整力② | 18.5% | 4.3% | −14.2pt | | 三次調整力① | 38.9% | 12.9% | −26.0pt | | 三次調整力② | 36.9% | 2.1% | −34.8pt | | 複合商品 | 45.7% | 22.0% | −23.7pt |
最大の改善は三次調整力②(−34.8pt、相対では −94%)で、募集量の 3 分の 1 が集まらなかった市場がほぼ充足に変わりました。一方、一次調整力は −23.4pt 改善してもなお 60.4% — 6 商品で唯一、過半が集まらない商品として残っています。
三次調整力②(最も劇的な改善)
一次調整力(改善してもなお最大の不足)
不足率と価格の対応 — FY2025 の分化を説明する
同じ 2 年の年間平均落札単価(円/ΔkW・30分)を不足率の高い順に並べます。
| 商品 | 不足率 FY2025 | 単価 FY2024 → FY2025 | 変化率 | |---|---|---|---| | 一次調整力 | 60.4% | 3.10 → 3.93 | +27% | | 二次調整力① | 41.1% | 3.21 → 2.79 | −13% | | 複合商品 | 22.0% | 2.80 → 2.83 | +1% | | 三次調整力① | 12.9% | 2.69 → 2.47 | −8% | | 二次調整力② | 4.3% | 2.67 → 2.53 | −5% | | 三次調整力② | 2.1% | 3.30 → 1.15 | −65% |
対応は単調ではありませんが、両端が最も雄弁です。不足率が最も高いまま残った一次調整力だけが明確に上昇し(複合は微増)、不足がほぼ解消した三次調整力②は急落。FY2024 に 2.67〜3.30 の狭い帯に収まっていた 6 商品の価格は、FY2025 に 1.15〜3.93 へ分化し、その並びは不足率の残存度合いとおおむね対応しています。
機構はこう読めます。調達が不足している市場では、上限価格付近の高値応札でも約定してしまうため、年間平均が押し上げられる。不足が解消すると競争が働き、高値約定の局面そのものが細る。三次②では実際に、蓄電池の平均落札単価が 109.43 → 19.31(−82%)へ縮小し、これが商品平均 −65% の主因になりました(電源種別別記事)。
なぜ不足率が改善したのか
EPRX の公表数値から直接言えるのは「不足率が下がった」ことまでです。同じ取りまとめの電源種別別データでは、FY2025 に二次調整力②で VPP の約定が初めて現れるなど蓄電池・VPP の約定商品が広がっており、新規リソースの参入拡大が供給を厚くしたことが示唆されます。ただし要因の定量的な分解(参入量・広域運用・要件緩和の寄与)は公表されておらず、本記事では断定しません。
読み方への示唆
- 価格と不足率はセットで読む。 単価の急落は「市場の縮小」ではなく「充足への正常化」でありうる。三次② FY2025 の 1.15 円はその典型
- 残った不足に注目する。 一次調整力の 60.4% は GF 並列義務 + 週間断面応札という構造要因が背景(市場ハブの解説)。ここが解消に向かうかが FY2026 の単価 3.93 円の行方を読む次の観測点になる、というのが本記事の見立て
- 蓄電池事業の観点では、「三次②の異常高値を当てにいく」前提が崩れた以上、全商品でならした収益設計が基本線になる(電源種別別記事のまとめと同じ結論に、不足率の側から到達する)
注意点と限界
- 年次・手動(EPRX 年次取りまとめ PDF より転記)。日次・コマ別・エリア別の不足は対象外
- 新定義の系列は FY2024〜の 2 点のみ。傾向と呼ぶには短く、FY2026 の続報で検証が必要
- 不足率は募集量比であり、必要量が満たされたかどうか(安定供給上の充足)とは定義が異なる
- 単価は volume-weighted でない「約定時の単価水準」(詳細は教材)
まとめ
FY2025 の需給調整市場は、全 6 商品で調達不足率が二桁ポイント改善した年でした。ほぼ充足した三次調整力②(2.1%)では単価が −65% と急落し、蓄電池の高値局面が細り、なお 60.4% が集まらない一次調整力だけが単価を切り上げた — 価格の分化(1.15〜3.93)は不足率の残存度合いをほぼなぞっています。「応動が速いから高い」のではなく「集まらないから高い」。FY2024 に価格の狭い帯の裏で立てたこの見立てが、FY2025 の不足率データで裏付けられました。
関連 Insight
- #62 需給調整市場 商品別 約定価格の構造 — 価格側から見た同じ構造(本記事は不足率側)
- #65 需給調整市場の電源種別別 落札単価 — 蓄電池 −82%・VPP 逆転の詳細
- #63 三次調整力② × JEPX — 唯一の 5 年系列、卸価格・燃料との年次連動
- 市場ハブ: 需給調整市場 (EPRX) 編集ページ — 6 商品の最新値と不足率バー
出典
- 電力需給調整力取引所 (EPRX) 取引実績の取りまとめ結果 — 年次取りまとめ PDF より転記・編集 (加工した旨を明記)
- EPRX 利用規約 §4 (非商用・出典明示で利用可、自動的な大量取得は事前承諾)
- 当データはエネルギー情報センター運営 eic-data-pipeline が手動更新
構成系列: balancing-shortage-primary + balancing-shortage-secondary-1 + balancing-shortage-secondary-2 + balancing-shortage-tertiary-1 + balancing-shortage-tertiary-2 + balancing-shortage-composite + balancing-price-tertiary-2
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publisher = {EIC Data}
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