電力の "休んでいる日" — GW・盆・年末年始で JEPX 価格はどう動くか
電力市場の価格は、需要と供給の鏡である。需要が下がれば、火力発電は出番を減らし、燃料費の上振れも卸価格に反映されにくい。**もっとも需要が下がるのは「休日」**だが、休日にもいくつか種類がある — GW、盆、年末年始。同じ「日本人が休む期間」でも、JEPX 価格の動きは大きく違う。
ここでは、JEPX 東京の日次データ(2021-2025)と METI 月次需要データ(2022-2025)で、その違いを定量的に見る。
1. 3 つの休日で価格はどれだけ下がるか
2021-2025 年の JEPX 東京 日次価格を、休日窓ごとに平均すると次のようになる(年平均 = 15.97 円/kWh):
| 期間 | 平均価格 | 年平均との差 | 凹率 | |---|---:|---:|---:| | GW(4/29-5/5) | 10.23 円/kWh | −5.74 | −36% | | 盆(8/13-15) | 12.86 円/kWh | −3.11 | −19% | | 年末年始(12/29-1/3) | 15.78 円/kWh | −0.19 | −1% | | (参考)通常期 6 月平日(6/10-14) | 12.26 円/kWh | −3.71 | −23% | | (参考)通常期 11 月平日 | 16.56 円/kWh | +0.59 | +4% | | 年平均 | 15.97 円/kWh | — | — |
つまり、GW が圧倒的に下がり、盆は中程度、年末年始はほとんど平均と変わらない。素朴に「みんな休んでいるんだから同じくらい下がるだろう」と思うとハズす。
2. なぜ凹みの大きさが違うのか — 3 要素で説明する
休日価格は、ざっくり次の 3 要素の合成で決まる:
- 産業活動の休止:工場・オフィスが止まる量。GW・盆・年末年始のいずれも産業は休止する。これは 3 期間ほぼ同じ。
- 暖房需要の有無:寒い時期は暖房が需要を支える。
- 冷房需要の有無:暑い時期は冷房が需要を支える。
| 期間 | 産業休止 | 暖房需要 | 冷房需要 | 結果 | |---|---|---|---|---| | GW(4 月末〜5 月頭) | 強 | なし | なし | 需要が両方から支えられない=大幅凹み(−36%) | | 盆(8 月中旬) | 強 | なし | 強い | 冷房需要が下支え=中程度凹み(−19%) | | 年末年始(12 月末〜1 月頭) | 強 | 強い | なし | 暖房需要が下支え=ほぼ平均(−1%) |
要するに、「気候が暖冷房需要を起こさない時期に産業が休む」と価格は一気に下がる。GW はまさにそれで、4 月末〜5 月頭は気温が穏やかなため暖房も冷房もほぼ要らず、需要を支えるものがない。
3. 月次需要でも GW 効果は明瞭
METI 月次需要(2022-2025 平均)を月別に見ると、5 月が年間最低の 61,951 GWh(年平均 71,603 GWh の −13%)。一方、盆を含む 8 月は冷房需要で 81,956 GWh(年間最高)、年末年始を含む 12 月は 69,029 GWh で年平均より少し下程度。月次で見ても、産業 × 気候の枠組みは整合的に見える。
| 月 | 平均需要(GWh) | 年平均比 | 主な特徴 | |---|---:|---:|---| | 1 月 | 80,547 | +12% | 暖房ピーク | | 5 月 | 61,951 | −13% | GW + 暖冷房不要 = 年間最低 | | 6 月 | 63,774 | −11% | 暖冷房の谷 | | 8 月 | 81,956 | +14% | 冷房ピーク、盆あっても最高 | | 11 月 | 63,150 | −12% | 暖冷房の谷 | | 12 月 | 69,029 | −4% | 年末年始あるが暖房需要で持ち上げ |
4. 具体例:2025 年 GW の day-by-day
平均だけでは伝わらないので、2025 年 GW 期間の JEPX 東京 日次価格を生のまま並べる:
| 日付 | 曜 | カレンダー | JEPX 東京(円/kWh) | |---|---|---|---:| | 2025-04-28 | 月 | 平日 | 11.84 | | 2025-04-29 | 火 | 祝(昭和の日) | 7.62 | | 2025-04-30 | 水 | 平日 | 9.69 | | 2025-05-01 | 木 | 平日 | 11.28 | | 2025-05-02 | 金 | 平日 | 12.96 | | 2025-05-03 | 土 | 祝(憲法記念日) | 7.54 | | 2025-05-04 | 日 | 祝(みどりの日) | 7.49 | | 2025-05-05 | 月 | 祝(こどもの日) | 6.99 | | 2025-05-06 | 火 | 振替休日 | 12.08 | | 2025-05-07 | 水 | 平日 | 9.08 |
5 月 5 日 = 6.99 円/kWh は GW 中盤のミニマムで、平日 5 月 2 日(12.96)と比べると −46%。祝日と平日で価格が倍近く違う様子が見える。「需要が下がると価格が下がる」は教科書通りだが、その振れ幅が「倍」というのは肌感覚として強い。
5. 教材としての読み方
この Insight が伝える方法論は 3 つ:
- 「休日効果」は一様ではない:気候と産業活動の組み合わせで決まる。
- 平均で語る前に分布を見る:GW 平均 10.23 円/kWh の裏には 5 月 5 日 6.99 円/kWh のような極端値がある。
- 月次データと日次データは違う粒度の真実を見せる:METI 月次は構造を、JEPX 日次は具体イベントを見せる。両方を組み合わせると立体的になる。
これは過去データの記述的分析(descriptive statistics)であり、未来の特定日の価格を予測するモデルではない。実取引や運用判断には、専門家による精緻なモデル(Yes Energy のような)と複数シナリオの検討が必要です。
関連 Insight
- JEPX 東京 月次価格の回帰分析 → 同じ JEPX 東京を別角度(OLS 回帰)で見る方法論ライブラリの姉妹編(#70)
- 日本の電源構成この 8 年 → 価格の背後にある電力構造、火力依存・原子力・再エネの時系列(#69)
- 予測の "下限ベンチマーク" → 休日の需要凹みは持続予測の誤差源の一つ。同じ JEPX 東京を単純モデル 4 種で out-of-sample 評価する方法論ライブラリ Day 3(#72)
6. 出典
- JEPX 東京 スポット価格:JEPX 公表値、
jepx-terms準拠 - METI 月次需要:経済産業省 電力調査統計、
meti-terms準拠 - 編集物(本記事の解説・集計結果):CC BY 4.0(EIC Data)
構成系列: jepx-spot-tokyo(日次)/ meti-demand-total(月次)/レンダラ: ChartLine ×2、休日窓平均・月別需要・2025 GW day-by-day は markdown 表で透明開示
編集物著作権: EIC Data (CC BY 4.0)
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publisher = {EIC Data}
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