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予測の "下限ベンチマーク" — 月次 JEPX を単純モデル4種で当てる

「予測モデルが優れているか」を判定するには、何と比べるかが肝になる。「正解率 80% です」と言われても、コイン投げで 50% なのか、サイコロで 17% なのかで、80% の偉さは全く違う。電力価格の予測でも同じ問題が立つ。

ここでは、できるだけ単純な 4 つのベースラインで月次 JEPX 東京の価格を予測してみる。これより複雑な予測モデル(#70 の重回帰、機械学習、Yes Energy のような業界モデル)が本当に意味のある改善をもたらすのか、を測る "ものさし" を作るのが目的である。

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1. 設定

ここでの「予測」は、ある月 t の価格を、それより前の情報だけで当てる事後評価である。実際の未来予測ではなく、過去データを使った "もしこのモデルだったらどれくらい当たっていたか" の検証である。

2. 4 つのベースライン

いずれもパラメータほぼゼロ、誰でも頭の中で計算できる類のモデル:

| モデル | 式 | 直感 | |---|---|---| | 持続予測(lag1) | y_hat(t) = y(t−1) | 「来月も今月と同じ」 | | 季節平均 | y_hat(t) = 過去すべての同月の平均 | 「夏は夏、冬は冬で似た値段」 | | 12 ヶ月前同値(lag12) | y_hat(t) = y(t−12) | 「去年の同じ月と同じ」 | | 訓練期間平均(定数) | y_hat(t) = 訓練期間の単純平均(11.88 円/kWh) | 「いつもだいたい 12 円くらい」 |

3. 結果

| モデル | MAE | RMSE | MAPE | |---|---:|---:|---:| | 持続予測(lag1) | 2.02 円/kWh | 2.91 | 11.94% | | 季節平均(同月過去平均) | 4.74 | 7.50 | 23.54% | | 12 ヶ月前同値(lag12) | 8.50 | 12.04 | 49.77% | | 訓練期間平均(定数) | 4.74 | 7.39 | 22.46% |

参考:訓練期間平均 = 11.88 円/kWh、テスト期間実績平均 = 16.14 円/kWh(2022 年以降に構造的な水準シフト)。

持続予測の誤差分布(n=52):

最大誤差は 2022 年 3〜4 月に集中している。ロシアのウクライナ侵攻後の LNG 急騰で JEPX が一気に上振れ → 翌月反動で下振れ、という構造変化のタイミングで、「前月と同じ」予測は当然ながら無力になる。

4. 読み取り

4.1 「前月と同じ」が圧倒的最良という事実

4 モデル中、持続予測(lag1)が最良で MAPE 11.94%。次点の季節平均と訓練期間平均は MAPE 22〜23% で約 2 倍の誤差、12 ヶ月前同値に至っては MAPE 49.77% で約 4 倍

月次価格は「先月と似ている」という時系列の慣性が極めて強い。これは #70 JEPX 月次回帰分析 で、5 変数の重回帰 R² が 0.883 だが前月価格 1 変数だけでも R² が 0.834だった発見と完全に整合する。同じ事実を、in-sample(当てはまり)と out-of-sample(予測誤差)の両側から見ている。

4.2 季節平均が壊滅的に効かないのはなぜか

電力価格は気温だけで決まらない。燃料コスト・為替・政策・原発稼働状況・電源構成で大きく動く。たとえば「過去 10 年の 3 月の平均」を取っても、2022 年 3 月の急騰(LNG ショック直撃)には全く追従できない。「電力価格は季節商品である」という素朴な仮定はデータが否定する

4.3 12 ヶ月前同値が最悪の理由

これは構造変化に最も脆いモデル。2022 年は 2021 年と「同じ世界」ではなかった(ウクライナ・LNG・円安)。「去年の同月」予測の MAPE 49.77% は、**「2022 年以降の世界は 2021 年以前とは別物」**ということをデータが叫んでいる。

4.4 構造的水準シフトと「定数モデル」の限界

訓練期間(2012-2021)の平均 11.88 円/kWh で「いつも 12 円くらい」と予測すると、テスト期間(2022 年以降、実績平均 16.14 円/kWh)では約 4 円も低く出続ける過去の平均は未来の平均ではない。これは予測モデル設計の最も基本的な落とし穴である。

5. Yes Energy「2%」との比較について

米 Yes Energy 社は電力需要の日次予測で「誤差約 2%」をベンチマークとして公開している。本記事の MAPE 11.94% と直接比較はできない

ただし「シンプルな代理モデルでベースラインを引く」という方法論は共通している。MAPE 11.94% は「月次価格の持続予測の限界精度」を示す下限ベンチマークとして、他のモデルを評価する基準になる。

6. 教訓 4 つ

  1. モデルを評価する前に "単純ベースライン" を作る。これより上回らないモデルは存在意義が薄い。
  2. 持続予測(前月と同じ)は月次データで強力。これより 1%pt MAPE を縮めるだけでも価値があるのが時系列予測の世界。
  3. 季節平均・年同月モデルは要注意。構造変化があると一気に外れる。
  4. R²(in-sample)と MAPE(out-of-sample)は別物。同じデータでも、評価視点を変えると違う側面が見える。#70 は前者、本記事は後者。

7. これは未来予測ではない

すべての結果は過去 52 ヶ月の out-of-sample 検証であり、来月の JEPX 価格を予測するものではない。実取引・運用判断には、専門家による精緻な日次・時間次モデル(Yes Energy のような)と複数シナリオ分析が必要です。本記事は「予測精度を測る方法論」を読者が自分で再現できる状態にすることを目指しています。

関連 Insight

8. 出典

引用方法の詳細は 方法論 §9引用規約 を参照。


構成系列: jepx-spot-tokyo(日次、月平均に集計)/レンダラ: ChartLine ×1、4 モデル評価・持続予測の誤差分布は markdown 表で透明開示 編集物著作権: EIC Data (CC BY 4.0)

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License: CC BY 4.0 / accessed_at は自動補完
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