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EU ETS 排出 vs 無償割当:排出枠を市場で買っているのはどの国か

2025年、EU ETS 対象29か国の排出の約46%しか無償枠で覆われていない。残り582Mt分は市場で買う。無償カバー率は国で割れ、石炭・島嶼の電力国ほど低く、水力・原子力のクリーン電源国ほど高い——「発電は原則オークション」という設計が国別に映る。

背景:ギャップ=市場で買う排出枠

EU ETS では、各国の施設は排出した分だけ排出枠(EUA、1 EUA = 1 tCO₂)を毎年償却する。枠の一部は無償割当として配られ、足りない分は**オークション(有償)**で調達する。つまり——

ギャップ(排出 − 無償割当)= 市場で買う必要がある排出枠 ≒ 炭素コストにさらされている排出量

ここで重要なのは、無償割当が産業・航空など国際競争にさらされる部門に向けられ、発電部門は原則として無償割当を受けない(フェーズ3, 2013年〜)という設計だ。だから、ギャップと「無償カバー率(無償割当 ÷ 排出)」は、その国の排出に占める発電・化石の比重を映す鏡になる。前記事「EU ETS × 日本 GX-ETS」で見た EU 全体の構造を、国別に開いてみる。

データ:2025年 国別ギャップ

EIC Data の ESG ドメインに、EEA の国別検証排出量(eu-ets-emissions-country-*)と国別無償割当(eu-ets-allowances-allocated-country-*)が揃った。2025年について両者を並べると(単位は Mt-CO₂e と百万EUA=いずれも百万トン規模で比較可):

| 国 | 排出 | 無償割当 | ギャップ | 無償カバー率 | |---|---:|---:|---:|---:| | ドイツ | 278.8 | 115.2 | 163.5 | 41.3% | | ポーランド | 115.1 | 37.8 | 77.3 | 32.9% | | イタリア | 111.9 | 41.1 | 70.8 | 36.7% | | スペイン | 95.8 | 43.8 | 52.1 | 45.7% | | オランダ | 69.1 | 32.7 | 36.4 | 47.3% | | チェコ | 40.4 | 10.7 | 29.7 | 26.5% | | ギリシャ | 39.5 | 10.6 | 28.9 | 26.9% | | アイルランド | 24.5 | 5.9 | 18.6 | 24.2% | | ベルギー | 38.9 | 27.1 | 11.8 | 69.6% | | フランス | 54.5 | 45.8 | 8.8 | 83.9% | | EU計(29か国) | 1,074.9 | 492.6 | 582.3 | 45.8% |

Loading eu-ets-allowances-allocated

EU 全体では、排出 1,075 Mt に対し無償割当は 493 百万EUA——排出の45.8%しか無償で覆われず、582 Mt 分は市場で調達される。そして上のチャートのとおり、無償割当の総量は20年で縮み続けている(2005年の2,084 → 2025年の493 百万EUA)。無償の枠が細るほど、ギャップ(市場で買う分)は構造的に広がっていく。

読み解き

  1. 絶対ギャップの上位は大排出国:ドイツ(163.5)、ポーランド(77.3)、イタリア(70.8)。経済規模と排出量が大きい国ほど、市場で調達する排出枠の量も大きい。
  2. 無償カバー率は二極化する:低い国はマルタ7.7%・キプロス23.8%・アイルランド24.2%・チェコ26.5%・ギリシャ26.9%・ポーランド32.9%——いずれも石炭火力や島嶼の化石電源で排出の多くを占める国だ。発電が無償割当を受けないため、カバー率が下がる。逆に高い国はアイスランド87.1%・スウェーデン84.2%・フランス83.9%・フィンランド81.4%——水力・原子力でクリーンな電源を持ち、ETS 排出が主に(無償割当のある)産業から来る国である。
  3. 日本 GX-ETS への含意:日本は2033年度に発電部門の有償オークションを始める。EU の国別データは、「発電を有償にすると、石炭・化石電源に依存する地域ほどギャップ(炭素コスト負担)が大きく出る」ことを示している。日本でも電源構成の地域差が、制度移行後の負担分布を左右しうる論点になる。

注: 本記事は過去データ(2025年)の記述的分析であり、将来予測ではない。「ギャップ」は無償枠で覆われない排出量であって、国の支払額そのものではない(オークション収入は加盟国に還元され、ギャップは産業と発電の混在を含む)。無償割当は産業・航空など漏洩リスク部門に配分され、発電部門は原則オークション(フェーズ3, 2013年〜)という EU ETS の設計を前提とする。英国(GB)は Brexit で2020年に EU ETS を離脱(以降 UK ETS)、リヒテンシュタイン(LI)は2008-2020年のデータのため、2025年の集計29か国から外れる。

出典

編集物著作権: EIC Data (CC BY 4.0)

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