容量市場メインオークション 6 年推移 — 電源投資シグナルとしての kW 価値
OCCTO 容量市場メインオークション (FY2024-FY2029、6 年分) の全国加重平均価格 (14,137 → 3,737 → 6,230 → 8,992 → 12,210 → 13,909 ¥/kW) とエリア別分化構造を実 CSV データで可視化。「初回高値 → 暴落 → V 字回復」の制度的ドラマと、太陽光大量導入の九州が高値になる kW 価値の本質を読み解く。
はじめに
日本の容量市場 (Capacity Market) は 2020 年に最初のメインオークションを実施し、2024 年度 (FY2024) から実際の供給力確保が開始された比較的新しい市場です。電力広域的運営推進機関 (OCCTO) が運営し、約 4 年後の供給力 (kW) を事前に確保することで、長期的な電源投資の経済性を支える役割を担います。
本記事では、実需給年度 FY2024 から FY2029 までの 6 回分のメインオークション約定価格と約定容量の推移を可視化し、「kW 価値」が日本の電源投資にどのようなシグナルを送ってきたかを読み解きます。
注: 容量市場のデータは「実需給年度 (delivery FY)」を主軸に公開されます。FY2024 向けオークションは 2020 年に実施され、約 4 年後の供給力を確保する仕組みです。
全国加重平均価格の 6 年推移 — 「14,137 → 3,737 暴落 → V 字回復」のドラマ
OCCTO 公表の約定結果から、全国加重平均価格 (9 エリアの約定容量で加重平均) の推移を見ると、容量市場が辿った劇的な軌跡が浮かび上がります:
| 実需給年度 | 全国加重平均価格 (¥/kW) | 局面 | |---|---|---| | FY2024 | 14,137 | 第 1 回 (2020 実施)、全エリア一律、上限価格水準で約定 | | FY2025 | 3,737 | 第 2 回、供給過剰見込みで約 74% 暴落、エリア分化開始 (2 価格) | | FY2026 | 6,230 | 第 3 回、回復局面 (5 価格に分散) | | FY2027 | 8,992 | 第 4 回、継続上昇 (6 価格でスプレッド最大) | | FY2028 | 12,210 | 第 5 回、4 価格に分化 (需給逼迫反映) | | FY2029 | 13,909 | 第 6 回、最新水準 (第 1 回に接近)、4 価格 |
この 「初回高値 → 暴落 → V 字回復(と並行して進むエリア別分化)」 という軌跡は、容量市場という制度がいかに需給見通しの変化に敏感に反応するかを示しています。特に FY2024 (14,137 円/kW) から FY2025 (3,737 円/kW) への約 74% の暴落は、初回オークションの上限価格水準から、供給力過剰見込みによる急落へと転じた制度的ドラマそのものです。なお、ここで示す全国値は 9 エリアの約定容量で加重平均したもので、FY2025 以降はエリアごとに価格が分かれている点に注意してください (次節)。
エリア別約定価格の構造
容量市場は全国一律ではなく、エリア間連系線制約によりエリア別に異なる約定価格が成立し得ます。代表 2 エリア (東京・九州) の推移を見ます:
実データで見ると、FY2024 は全国一律 (全エリア 14,137 ¥/kW) でしたが、FY2025 から早くもエリア分化が始まり、年を追うごとに価格帯が広がりました:
| 実需給年度 | エリア別価格の状況 | エリア間スプレッド (最高 − 最安) | |---|---|---| | FY2024 | 全国一律 (14,137) | 0 | | FY2025 | 2 価格に分化 | 1,747 | | FY2026 | 5 価格に分化 | 2,917 | | FY2027 | 6 価格に分化 (分散最大) | 5,649 (北陸/関西/中国/四国 7,638 〜 北海道 13,287) | | FY2028 | 4 価格に分化 | 6,027 (北陸ほか 8,785 〜 東京/東北/北海道 14,812) | | FY2029 | 4 価格に分化 | 2,724 (中部ほか 12,388 〜 九州 15,112) |
近年 (FY2027 以降) の高安パターンには明確な構造があります:
- 高値エリア (北海道・東北・東京・九州): 北海道は北本連系線制約 + 寒冷地需要 + 火力老朽化、東北・東京は 50Hz 大需要地で再エネ変動を埋める確実な供給力 (kW) 需要が強い。九州は太陽光大量導入で kWh は潤沢だが、夜間・無日照時にも出せる確実な容量 (kW) はむしろ不足するため容量価値が高く出る (FY2029 は全国最高の 15,112 ¥/kW)。
- 低値・共通価格エリア (中部・北陸・関西・中国・四国): 西日本 60Hz の強い連系線で結ばれ、FY2027 の 7,638、FY2028 の 8,785、FY2029 の 12,388 のように複数エリアが同一価格で約定する。大規模火力 + 関西の原発再稼働で供給力に余裕がある。
「九州 = 太陽光が多い = 容量価格が安い」という直感は実データに反証されます。太陽光は電力量 (kWh) を生みますが、容量市場が評価する「確実に出せる供給力 (kW)」としては限定的にしか算入されないため、太陽光大量地域がむしろ高値になり得るのが容量市場の本質です。エリア分化は FY2028 で「初めて」起きたのではなく、FY2025 から段階的に進み、FY2027 にスプレッド最大 (5,649 ¥/kW、6 価格) を記録しています。
電源投資シグナルとしての解釈
火力電源への影響
容量市場価格が FY2027 以降の高値圏 (8,992 → 12,210 → 13,909 ¥/kW) に向かう局面は、老朽火力の維持判断に強い影響を与えます。減価償却済の石炭火力・LNG 火力にとって、容量収入 = kW 価値の固定収益は廃止判断を遅らせる経済的インセンティブです。
再エネ + 蓄電池への影響
容量市場には蓄電池併設再エネも参加可能で、出力制御リスクを抱える太陽光発電に対し、kW 価値の安定収入源を提供します。
新規電源投資への影響
新設の LNG 火力 / 揚水発電 / 大型蓄電池の投資回収期間 (15-20 年) において、容量市場価格の長期見通しが投資判断の最大不確実性となっています。FY2027 以降の価格上昇基調は、新規 LNG 火力の新設意思決定を後押しする方向に作用しています。
JEPX スポット価格との関係
kWh 価値 (JEPX) と kW 価値 (容量市場) の補完性
電力市場における収益は kWh 価値 (実発電量に応じた変動収入) + kW 価値 (設備容量に応じた固定収入) の 2 階建て構造です:
- kWh 価値 (JEPX スポット): 燃料費連動、ボラティリティ高
- kW 価値 (容量市場): 約 4 年前固定、ボラティリティ低 (ただし FY2024 → FY2025 のような暴落リスクあり)
容量市場価格が高値圏にあるということは、JEPX スポット価格が低水準時でも電源を維持できる経済性を提供することを意味します。
約定容量の推移 (参考)
約定容量は約 4 年後の供給力 (kW) として確保される総量。価格と並べて見ることで、価格暴落 (FY2025) や V 字回復 (FY2027 以降) が需給見通しの変化を反映している構造が読み取れます。
注意点と限界
- 容量市場は 2020 年制度開始の新しい市場 で、現時点で FY2024-FY2029 の 6 回分のオークションデータのみ
- 容量拠出金 (小売事業者が負担) は最終的に消費者の電気料金に転嫁される構造、消費者負担増加の懸念
- 米国 PJM 容量市場や英国容量メカニズムと比較すると 約定価格の振幅が大きい (FY2024 → FY2025 で約 74% 下落) = 制度設計の安定性課題
- 追加オークション (FY2025・FY2026 向け) は本記事の対象外 (メインオークションのみ)
まとめ
容量市場の 6 年推移 (14,137 → 3,737 → 6,230 → 8,992 → 12,210 → 13,909 ¥/kW) は、日本の電源投資環境が**「火力廃止 vs 維持」「再エネ + 蓄電池ビジネス」「新規 LNG 火力投資」**の 3 軸で大きく揺れていることを可視化しています。kW 価値の長期見通しが、北極星「日本のエネルギーと金融の引用インフラ」の根幹データとして、研究者・媒体・トレーディング会社・政策担当者にとって不可欠です。
関連 Insight
- 火力発電量 × LNG → 火力 = 需要調整役の経済構造(#22)
- 再エネ比率の 5 年トレンド → 2030 年目標 36-38% への道のり(#21)
- Fed FF rate × JEPX 東京 → 政策金利と日本電力卸価格の遠い因果(#40)
出典
- OCCTO 容量市場メインオークション約定結果(実需給年度 FY2024-FY2029、約定価格 + 約定容量、occto-terms)
- 容量市場ガイドライン(経済産業省、2020 年制度開始)
- 当データはエネルギー情報センター運営 eic-data-pipeline が毎朝 8:00 JST に自動更新
構成系列: capacity-main-auction-price-national + capacity-main-auction-price-tokyo + capacity-main-auction-price-kyushu + capacity-main-auction-volume-total
編集物著作権: EIC Data (CC BY 4.0)
Phase D 第 1 期 Day 1 で MDX 化(2026-05-21、リン)
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License: CC BY 4.0 / accessed_at は自動補完@misc{eic-data-capacity-market-5-year-trends,
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publisher = {EIC Data}
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